この章では、アナログとデジタルの違いについて科学的に理解しましょう。
前章でお話した通り、アナログは連続的、デジタルは断続的でした。この理解を深めるためによく用いられるのが「音」です。「音」は音源から空気などの媒体を振動させて伝わります。この振動とは何かという話から始まります。
中学理科では、音の正体は振動であると習ったと思いますが、実はそれもただのイメージです。振動を数式で表すのが科学的思考の第一歩ですね。音の振動を波のグラフにするとこんな感じになります。
https://www.geogebra.org/graphing?lang=ja で作成
これはいわゆる正弦波($y=sinx$)のグラフです。$sinx$は原点を中心とする円の円周をなぞる関数ですが、円周を動く物体に横から光を当てて、影の映ったスクリーンを動かすと、上記のような波の形になります。
で、音は結局振動なんでしょってことで、エジソンが発明したのが蓄音機です。
さて、アナログ(連続的)な音波からデジタル(断続的)な波にするにはどうすればよいでしょうか。その前に、メリットがあるのでしょか。あるんです。一番のメリットはコピーが楽ということです1)。
たとえば、レコードに保存された音をコピーする場合、どうすればよいでしょうか。レコードを再生して、その時に発生した音を別のレコードに録音しますね。これには大きな問題点があります。部屋でひっそりとレコードのコピーをしようとしていると、こういう時に限って「こんにちは~宅配でーす」なんて言われます。録音されたレコードには「こんにちは~宅配でーす」という音が残ることになります。つまり、アナログの場合、コピーするにしても雑音が入るのですね。これでは、量産が難しいのです。せっかく名曲ができあがっても雑音がある前提で売らなければいけません。
対してデジタルでは音が記録されているわけではなくて、「再生の仕方」が記録されています。そのため誰かが「規格」を決める必要があるわけです。「再生の仕方」とはいわば楽譜のようなものです。楽譜さえあれば、だれもが同じように演奏できるわけではないですね。「規格」という指揮者にあたるものが必要なのです。オーケストラでいえば、同じ楽譜でも指揮者が違えば全く違う演奏になります(私は知らんけど違うらしい)。
で、楽譜だけなら簡単にコピーできますね。指揮者の腕はなかなかコピーできませんが。このように、デジタルでは「再生の仕方」と「規格」が合わさって再生ができるのです。
あたかもデジタルでは「再生の仕方」だけ記録されているかのように話しましたが、実はアナログでも「再生の仕方」だけを記録しています。むかしあったビデオテープ2)もアナログデータと言われますが、「再生の仕方」だけを記録しています。
https://www.irasutoya.com/
ビデオテープはカメラに写った被写体をそのまま、磁気テープに記録します。写ったもの全ての情報を持っているデータのことを「ROWデータ」と言います。極端な話でいうと、白黒写真であっても、「ROWデータ」自体には若干色の付いた情報が残っていたりします。ただ、人に見せるには少し足りない色数だったりするので白黒で撮影されたビデオは白黒で再生されます。ビデオテープはアナログデータですので、カメラに写ったもの、テレビに映ったものをデータとしてテープに記録していくわけです。
ですが、被写体をそのままとは言え、目に見えるものを全て保存するわけにもいきません。というわけで、ある程度情報を落とすわけですね。先ほどの楽譜の話で言えば、作曲家からしたら「ここはこんなふうに演奏して欲しい」という思いがあったとしても、楽譜には楽譜記号で定められた奏法しか載せることができません。このように、生の状態から情報を落とした上で記録しているわけですから、奏者の腕によっては聞き心地がよくなったり悪くなったりするんです。これを規格の違いというのでしたね。
よく昔の映像が早送りのように再生されるのは、違う「規格」で録画されたものを無理やり、現在の「規格」で再生しているためなんです。
デジタルの場合は、後述しますが、ある程度情報を落とすことが前提です。そのため、デジタル録音やデジタル録画の場合は、必然的に「再生の仕方」と「規格」が別になるんですね。
アナログからデジタルへの変換は以下の3つプロセスで行います。
では、それぞれについて見ていきましょう。
いま、下のようなアナログ波形があるとします。